広島高等裁判所岡山支部 昭和53年(ラ)17号 決定 1978年8月02日
抗告人 中山勝
相手方 中山辰造
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 抗告人は、原審判に対する不服の理由として、別紙「抗告の理由」のとおり主張した。
二 当裁判所の判断
民法八九二条は、推定相続人廃除の原因の一つとして、「推定相続人にその他の著しい非行があつたとき」をあげているが、ここでいう推定相続人の非行は、単に被相続人に対するものに限定されるわけではなく、他人に対する非行であつても、それが被相続人及び他の共同相続人らに対し直接間接に財産的損害や精神的苦痛を与え、このために相続的協同関係が破壊される程度のものであれば、廃除原因になりうるものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、原審判挙示の証拠を総合すれば、抗告人は相手方の長男であつて、現に遺留分を有する推定相続人であるが、結婚をして妻との間に二人の男児をもうけながら、遊興に明け暮れ、相手方所有の田を担保に入れて金員を借用しようと図つたこともあり、身持ちの悪さから離婚したばかりか、相手方から贈与を受けた農地や居宅を売却して遊興費にあて、さらに、子供二人の養育を相手方に委ねたまま家を出、たまに帰つてきては金をせびるという生活を続けていたところ、昭和三四年頃から昭和四七年頃までの間に、詐欺、横領、傷害、窃盗、強姦未遂、恐喝等の犯罪を重ね、八回も有罪判決を受けて服役生活を繰り返した挙句、更生するどころか、昭和五一年には、相手方の二女田川光子方に深夜覆面をして単身押し入り、所携の菜切包丁を突きつけて同女の夫を縛り上げた上、現金を強奪するという強盗事件まで犯し、このため現在○○刑務所で服役中であること、一方、相手方や同胞たちは、これまでも抗告人の怠惰な生活に泣かされ、度重なる不行跡に世間に対し肩身の狭い思いをしていたが、今回の強盗事件にはとりわけ大きな衝撃を受け、親族に対して顔向け出来ないと恥入つていることが認められ、右認定を覆すに足りる資料はない。
右認定にかかる抗告人の一連の非行は、相手方以外の者に対する非行が大部分を占めているとはいえ、まさに相手方との相続的協同関係を破壊する程度の非行というべきであつて、廃除原因たる著しい非行に該当するものといわなければならない。
したがつて、これと同旨の原審判は相当である。
なお、抗告人が相手方の推定相続人から廃除されても、抗告人の二人の子には代襲相続権があることを付言する。
よつて、本件抗告を失当として棄却すべく、民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 加藤宏 判事 喜多村治雄 下江一成)
抗告理由書<省略>